安全対策

 従来、中津祇園の御神幸においては、下祇園および上祇園のそれぞれの年番町を中心に各町独自に安全策が講じられてきましたが、 平成16年度の中津祇園において事故が多発したことを受け、各町に伝わる安全対策を全体で共有し、 安全対策にもっと力を入れるべきとの声が上がりました。 

 中津祇園保存協議会では、中津祇園安全対策委員会を立ち上げ、 御神幸・御巡行におけるガイドラインの策定などに取り組みました。

中津祇園 祇園車・御神輿の御神幸・御巡行における安全ガイドライン

平成16年11月13日策定
平成23年6月1日改定

1.はじめに
 中津祇園は570年以上の伝統を誇り、闇無浜神社(下祇園)と中津神社(上祇園)から合計13台の祇園車とよばれる山車と2基の御神輿が出される。そして、祇園車・御神輿の御神幸・御巡行と、両神社境内 での勇ましい「練り込み」こそが中津祇園の特徴のひとつであるが、他方で、重さが数トンあると言われる祇園車と御神輿を運行する際には、御神幸・御巡行ルート周囲の関係者や観光客はもとより、参加者などに対する安全配慮が最重要にして、不可欠の前提となる。

 この点、御神幸・御巡行においては、従来から、下祇園上祇園それぞれの年番町を中心に各町独自に安全策が講じられてきたが、平成16年度の中津祇園において事故が多発したことを受け、各町に伝わる安全対策や危機管理の手法を中津祇園全体で共有し、中津祇園全体として、安全対策にもっと力を入れて取り組むべきとの声が上がった。

 そこで、中津祇園保存協議会では、中津祇園安全対策委員会を立ち上げ、本ガイドラインを策定するとともに、中津祇園に関わる者全員がすべからく危機管理の意識やノウハウを共有できる環境や体勢の整備などに取り組んできた。

 さらに、その後、平成22年の事故をうけ、観衆への安全対策をより充実させるための所要の改正を行うべく、検討を重ね、いくつかの項目を追加するに至った。

 本ガイドラインでは、祇園車・御神輿を安全に運行するための、責任者向けの基準・注意点を記述する。各町は、責任者が、本ガイドラインを参加者及び関係者に周知徹底して遵守を図り、無事故の中津祇園を常に目指すものとする。


2.基本方針
本ガイドラインでは、以下の6項目を基本方針とする。

  • 勇壮にして、無事故・安全な中津祇園とする。
  • 中津祇園の文化(神事、しきたり、運行のノウハウ)を継承する。
  • 神事(御神幸)とイベントとの区別を明確にし、参加者の安全意識を向上させる。
  • 青少年の健全育成のため、未成年者の喫煙および飲酒行為がないよう監督する。
  • 中津祇園をより多くの人にみてもらい、参加して良し・見て良しの祭とする。
  • 観衆の安全はもとより、参加者・関係者の安全を確保し、より良い中津祇園を後世に残す様に目指す。


3.祇園車の運行について

  • 祇園車を出発および停止させる際の合図の方法、合図をする者を、引き手舵取りなど参加者に周知徹底しておく。
  • 祇園車を動かす際の掛け声について、掛けるタイミングやその後の祇園車の動かし方などについても参加者に周知徹底をしておく。
  • 祇園車は安全な速度で進行させる。
  • 「お宮入り」「祇園車共演」「練り込み」等では、観客と引き手とが交錯しないよう、警備担当者は注意を呼びかける。
  • 祇園車が所定の箇所に停止したら、輪止めを置く。


4.参加者全般について

  • 参加者各位の安全意識を向上させるよう、安全教育に取り組む。特に初参加者や若年者に対しては充分な教育を行う。
  • 腰に法被を巻くと車に巻き込まれる危険性がある。服装を整備し、正しい着用をするよう指導する。
  • わらじの紐や地下足袋のハゼ等に乱れがないか、お互いに足元を確認する習慣をつけるよう呼びかける。
  • 巻き込みや引っかかりの原因となるような物を身につけないように注意する。


5.引き手について

  • 引き綱には、男性と女性を交互に付かせる。女性と子供が固まって付いてしまうと転倒したときに危険である。また、女性と子供は綱の外側に付かせる。
  • 過度の飲酒をした者は綱に付かせない。
  • 引き手同士の足が交錯しないよう、引き手が付く間隔に充分注意する。
  • 状況に応じて、綱の重要箇所(先頭や綱元など)には熟練者を付ける。
  • 転んでも祇園車に巻き込まれないようにするため、綱は左右に広げて引っ張る。
  • 転んでも綱を放さない。
  • 祇園車を折り返しするとき(棒練り)は、綱を持ち上げてくぐり、折り返す。そのとき綱を放さない。綱を放すと、垂れてしまった綱で引き手の足が取られる危険性がある。垂れた状態の綱を拾おうとすると、一瞬にして緊張状態になった綱で顔等に傷を負うこともあるので、充分に注意する。綱をまたぐことも危険である。
  • 上祇園の回し練りの際には、前舵付近の綱元に付かないようにする。


6.舵取りについて

  • 舵棒を放さない。特に、祇園車が後進しながらの舵切りは充分注意する。
  • 祇園車が前進しながら前舵で舵を切るのは危険であるので、舵取りが転倒して祇園車に巻き込まれないよう充分注意する。
  • 曲がり角の直前になり舵棒へ肩を入れたときは、舵取り同士の足が交錯しないように注意する。
  • 交差点等で舵を切る際には、壁や電柱等の障害物に充分注意する。舵取りが舵切りの最中に、舵棒と障害物の間に挟まれたり、肩を入れている舵取りが障害物に頭を強打したりなどの危険性がある。狭い交差点では、肩を入れる前に舵棒を短くし、2度3度に分けて少しずつ舵を切るようにする。
  • 舵棒は雨に濡れると滑りやすくなるため、雨が降り始めた場合はサラシを巻く。
  • 上祇園の回し練りでは、艫綱に付く舵取りの人数を制限する。

7.車付(台輪・舳・艫)について

  • 熟練者が担当する。
  • 舵棒への合図、指示を徹底する。
  • 危険箇所等を事前に確認しておく。
  • 交差点等において舵を切る際に、電柱等に挟まれないよう充分注意する。
  • 祇園車が後進する際には、綱を台輪後部で結わく。結わくことで、舵を切りやすくし、綱と台輪との間に引き手が挟まれるのを防ぐことができる。棒練りの最中は、折り返しのたびに綱を結わくことができないので、短いロープ等を用いて綱を束ねるようにする。
  • 転倒者救助のために前舵棒の前方に熟練者を数名配置する。

8.御神輿について

  • 雨で舁き棒が濡れると滑りやすくなるので、雨が降り始めた場合はサラシを巻く。夕立ち等に備え常にサラシを御神輿に積んでおく。
  • 舁き棒が濡れてしまうため、力水は頭から掛けない。掛けるならば、足元へ掛ける。
  • 脚立にぶつかる危険があるため、御神輿を置く際には、台(御神輿本体)に一番近い人は舁き棒から離れる。
  • 脚立を御神輿に入れる時は手を挟む危険があるので、天板を持たずに脚を持って入れる。
  • 前の担ぎ手の足を踏まないために、できる限り広がって進む。
  • 台の四隅に人をつけ、狭い道等で御神輿が家の軒先等にぶつからないようにバランスをとる。
  • 端切り(舁き棒の先端で逆を向いて押さえる人)が速度調整と御神幸時の舵取り、担ぎ手の広がり具合を調整する。
  • 御神輿の差し上げは、台が中心となって差し上げる。
  • 担ぎ手の息が合わない時は、御神輿を置き、整列して肩の高さをあわせる。
  • 朝車および戻り車の朝、神社を出発する際に、掛け声の意味と動作の確認を中心に担ぎ方の練習を行う。特に、差し上げるタイミングは繰り返し行う。差し上げの呼吸が合わないと重大な事故につながる。


9.危険箇所と対策
 危険箇所の一般的な対策として、最も重要なことは年番町を中心とした事前の御神幸ルートの調査確認である。調査結果は、わかりやすい形で各町に知らせ、事故が発生しないよう対策を充分に練る。
 以下、様々な危険箇所について、それぞれの対策を記述する。

【架空線、看板、しめ縄対策】

  • 御神幸中は人を祇園車の屋根に乗せない。
  • 架空線が祇園車に引っかかった時等やむを得ない場合は、熟練者を乗せる。
  • 高〆の高さを上げ、注連縄が垂れすぎないようにする。
  • 行政、九州電力、NTT等と協議をし、御神幸ルートの架空線を上げていくよう協力を働きかける。また、将来的には架空線の埋設化を視野に入れて取り組む。
  • 幟、吹き流し等の装飾品を含めた祇園車の全高を5m50cm以下とする。

【交差点の電柱等の対策】

  • 舵棒を収納し、長さを短くする。
  • 2度3度に分けて舵を切る。
  • 車付(台輪・舳・艫)は合図を出すタイミングに注意する。
  • 祇園車周辺で電柱等に挟まれる危険性のある箇所(欄干)に人を付かせない。

【マンホールの蓋等滑りやすい舗装、側溝等の段差への対策】

  • わらじや地下足袋等の履物を着用し、紐がほどけたりハゼがはずれたりしていないか、頻繁な確認を心がける。
  • 舗装から砂地へ変わる箇所(神社入口)は滑りやすいので、注意を呼びかける。
  • マンホールやハンドホールの蓋等を滑りにくい素材に漸次交換するべく、また段差の著しい箇所は所要の改良工事をするべく、関係機関や自治体に対して継続的に要望する。

【祭典中の取り組み】

  • 祭典中(御神幸中など)に、事故発生に繋がりかねないような危険箇所を新たに発見したときは、ただちに自町内総代、青年会長および年番町へ報告する。
  • 車付責任者、青年頭は、祇園車に異状がないか頻繁にチェックする。

【祭典後の取り組み】

  • 祭典中に、危険な事例があった場合や新たな危険箇所の発見等があった場合には、関係町の総代や青年会長は、時宜を見て、その要旨を口頭または書面で、中津祇園保存協議会(または中津祇園安全対策委員会)に報告しなければならない。
  • 中津祇園保存協議会は、前項の報告を受けたときは、適宜、反省会を開催するなどして、危険箇所や危険事例に関する情報の共有化を図り、翌年度以降の安全対策に役立てる。(ヒヤリハット運動)

10.その他

  • 国や自治体の関係部署、警察、民間企業等と協議する際は、担当者が替わっても、円滑に対応できるようにするため引継ぎを綿密に行う。
  • 誇りある勇壮な中津祇園を維持継承し、さらに発展させるため、参加者は、各自事故を起こさず、かつ、事故に遭遇することのないよう常に留意しなければならない。
  • 各町総代は、中津祇園の伝統や文化を適切に継承できるようにするため、参加者の服装や行状、振る舞いを常に観察し、必要な指導を行わなければならない。
  • 無事故を目指すだけでなく、まちの美化や中津祇園のイメージアップにも心がける。

11.観客、観衆について

  • 福沢通りでの歩行者天国時、沿道沿いに自主警備員を配置し、祇園車の走行進路に観衆が入らない様に警備する。
  • 闇無濱神社、中津神社での練り込みでは、祇園車の走路及びその周辺の状況に特に注意して、自主警備員を配置し、観衆に立入らせない。
  • 自主警備員の指導や誘導に従わないため、安全を阻害するおそれのある観客、観衆を発見した場合には、直ちに年番、総代に相談するとともに、警察などの協力も求めながら、安全運行に努める。